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母平均の仮説検定

正規母集団から得られた1つの標本を使って、母平均 \(\mu\) に関する仮説検定を行う方法を学びます。帰無仮説・対立仮説を設定し、母分散が既知の場合は標準正規分布、未知の場合はt分布を使って、帰無仮説を棄却するかどうかを判断します。
このページのゴール

母平均に関する帰無仮説と対立仮説を設定し、母分散が既知・未知の場合それぞれについて検定統計量と棄却域を求め、仮説検定を実行できるようになる。

STEP 01

1標本問題として母平均を検定する

ここからは、 具体的な仮説検定の方法を見ていきます。

まず扱うのは、 1つの母集団から得られた1つの標本を使う 1標本問題 です。

今回は、 正規母集団

\[ X\sim N(\mu,\sigma^2) \]

母平均 \(\mu\) について仮説検定を行います。

考え方は、 ここまで学んできた 母平均の区間推定 とよく似ています。

区間推定とのつながり
標本平均がどんな分布にしたがうか整理する
z または t が使える形にする
確率を使って判断する

ただし仮説検定では、 この流れに入る前に 仮説を設定する という作業が加わります。

今回のテーマ
区間推定で学んだ標本分布を使って、 母平均についての帰無仮説を検定する。
STEP 02

手順0:帰無仮説と対立仮説を設定する

仮説検定では、 分布を整理する前に、 まず 帰無仮説 \(H_0\)対立仮説 \(H_1\) を設定します。

このレクチャーでは、 母平均 \(\mu\) が ある具体的な値 \(\mu_0\) である、 という帰無仮説を考えます。

帰無仮説
\[ H_0:\mu=\mu_0 \]

たとえば、 ある製品の寸法誤差について

\[ H_0:\mu=0 \]

と設定すれば、 「平均的には寸法誤差がない」 という世界を帰無仮説として考えることになります。

そして、 その帰無仮説と対立する世界を 対立仮説として設定します。

両側検定 \[ H_1:\mu\neq\mu_0 \]
右片側検定 \[ H_1:\mu>\mu_0 \]
左片側検定 \[ H_1:\mu<\mu_0 \]
手順0
まず帰無仮説 \(H_0\) と対立仮説 \(H_1\) を設定する。 ここが仮説検定の出発点。
STEP 03

両側検定と片側検定では棄却域が違う

対立仮説をどのように設定するかによって、 棄却域を置く場所 が変わります。

有意水準 \(\alpha=0.05\) の例
\(H_1:\mu\neq\mu_0\) | 両側検定
2.5% 2.5%
\(H_1:\mu>\mu_0\) | 右片側検定
5%
\(H_1:\mu<\mu_0\) | 左片側検定
5%

今回はまず、 対立仮説を

\[ H_1:\mu\neq\mu_0 \]

とした 両側検定 を中心に考えていきます。

違い
両側検定なら左右に \(\alpha/2\) ずつ、 片側検定なら片側に \(\alpha\) を置く。
STEP 04

手順1:帰無仮説のもとで標本平均の分布を整理する

帰無仮説と対立仮説を設定したら、 ここからは区間推定と同じように、 何がどんな分布にしたがうか を整理します。

帰無仮説は

\[ H_0:\mu=\mu_0 \]

でした。

つまり仮説検定では、 母平均が \(\mu_0\) である世界 を仮定して考えます。

正規母集団からサンプルサイズ \(n\) の標本を取り出したとき、 標本平均 \(\bar X\) は、

\[ \bar X \sim N\left( \mu_0,\; \frac{\sigma^2}{n} \right) \]

にしたがいます。

平均が \(\mu_0\) なのがポイント
普段なら \(\bar X\) の平均は \(\mu\) ですが、 今回は帰無仮説として \(\mu=\mu_0\) の世界を仮定しているため、 標本平均の分布の平均も \(\mu_0\) になります。
手順1
帰無仮説 \(H_0:\mu=\mu_0\) のもとで、 標本平均 \(\bar X\) の分布を整理する。
STEP 05

母分散が既知の場合|手順2:zに標準化する

まず、 母分散 \(\sigma^2\) が 既知 の場合を考えます。

手順1で、

\[ \bar X \sim N\left( \mu_0,\frac{\sigma^2}{n} \right) \]

と整理できました。

そこで、 標本平均から平均 \(\mu_0\) を引き、 標準偏差で割って標準化します。

\[ Z = \frac{\bar X-\mu_0} {\sigma/\sqrt n} \sim N(0,1) \]

この \(Z\) が、 仮説検定では 検定統計量 になります。

検定統計量とは
標本から実際に計算できる値

帰無仮説を棄却するか判断するために使う
手順2
母分散が既知なら、 \(Z=(\bar X-\mu_0)/(\sigma/\sqrt n)\) を検定統計量として使う。
STEP 06

手順3:有意水準を決めて棄却域をつくる

検定統計量 \(Z\) が 標準正規分布にしたがう形まで整理できたので、 次は 有意水準 \(\alpha\) を決めます。

ここでは、

\[ \alpha=0.05 \]

とします。

今回の対立仮説は

\[ H_1:\mu\neq\mu_0 \]

なので、 両側検定 です。

したがって、 有意水準5%を左右に半分ずつ分けます。

両側検定の棄却域
2.5% 2.5%

標準正規分布の上側2.5%点は、

\[ z_{0.025}\approx1.96 \]

なので、 棄却域は

\[ |Z|\ge z_{0.025} \]
95%両側検定なら \[ |Z|\ge1.96 \]
手順3
両側5%検定では、 左右2.5%ずつを棄却域にする。
STEP 07

検定統計量の実現値が棄却域に入るかを見る

あとは、 実際の標本データから 検定統計量 \(Z\) を計算します。

\[ z_{\mathrm{obs}} = \frac{\bar x-\mu_0} {\sigma/\sqrt n} \]
\(z_{\mathrm{obs}}\) は、 実際に観測された標本データから計算した 検定統計量 \(Z\) の具体的な値 を表します。
この具体的な値を 検定統計量の実現値 と呼びます。

つまり、 \(Z\) は検定統計量という 確率変数 であり、 実際の標本を代入して得られた \(z_{\mathrm{obs}}\) が、 今回のデータで観測された 実現値 という関係です。

\(Z\)
検定統計量
確率変数
\(z_{\mathrm{obs}}\)
実際に計算された値
実現値

そして、 この実現値が 棄却域に入るかどうか を確認します。

実現値がどこに入るかで判定する
実現値
図では、 \(z_{\mathrm{obs}}\) が右側の棄却域に入った例を示しています。
実現値が棄却域に入る
→ 帰無仮説 \(H_0\) を棄却する
実現値が棄却域に入らない
→ 帰無仮説 \(H_0\) を棄却しない

帰無仮説を棄却できた場合には、 対立仮説を支持する方向の証拠が得られた と考えます。

判定
\(Z\) は検定統計量、 \(z_{\mathrm{obs}}\) はその実現値。
実現値が棄却域に入るかどうかで、 帰無仮説を棄却するか判断する。
STEP 08

片側検定なら上側5%点を使う

ここまでは、 対立仮説を

\[ H_1:\mu\neq\mu_0 \]

とした両側検定を見てきました。

一方、

\[ H_1:\mu>\mu_0 \]

のように、 大きい側だけを考える場合には、 右側だけに有意水準5%を置きます。

右片側5%検定
5%

この場合は、 上側5%点を使って

\[ Z\ge z_{0.05} \]

となる領域を棄却域にします。

整理

両側検定:左右に \(\alpha/2\) ずつ
右片側検定:右側に \(\alpha\)
左片側検定:左側に \(\alpha\)
STEP 09

母分散が未知の場合|t分布を使う

次に、 母分散 \(\sigma^2\) が 未知 の場合を考えます。

母分散がわからないので、 標本から計算した 不偏分散 \(\hat\sigma^2\) を使います。

\[ \hat\sigma^2 = \frac{1}{n-1} \sum_{i=1}^{n}(X_i-\bar X)^2 \]

このとき、 検定統計量は

\[ T = \frac{\bar X-\mu_0} {\hat\sigma/\sqrt n} \sim t(n-1) \]

となります。

つまり、 母分散が未知の場合には、 標準正規分布ではなく 自由度 \(n-1\) のt分布 を使います。

母分散が既知
\(Z\) → 標準正規分布
母分散が未知
\(T\) → 自由度 \(n-1\) のt分布
母分散が未知なら
\(\sigma\) を \(\hat\sigma\) で置き換え、 t分布を使って検定する。
STEP 10

t検定でも判定の流れは同じ

t分布を使う場合でも、 仮説検定の流れそのものは変わりません。

両側5%検定なら、 自由度 \(n-1\) のt分布について 上側2.5%点

\[ t_{0.025}(n-1) \]

を付表から探します。

そして、 棄却域は

\[ |T| \ge t_{0.025}(n-1) \]

です。

z検定とt検定の共通する流れ
仮説を設定
検定統計量を計算
有意水準から棄却域を設定
実現値が棄却域に入るか判定
ここがポイント
zを使うかtを使うかは違っても、 仮説検定の手順そのものは同じ。
STEP 11

母平均の仮説検定を4つの手順で整理する

手順0
帰無仮説と対立仮説を設定 \[ H_0:\mu=\mu_0 \] \[ H_1:\mu\neq\mu_0 \]
手順1
標本平均の分布を整理 \[ \bar X \sim N\left( \mu_0,\frac{\sigma^2}{n} \right) \]
手順2
検定統計量へ変換
\[ Z= \frac{\bar X-\mu_0}{\sigma/\sqrt n} \] または \[ T= \frac{\bar X-\mu_0}{\hat\sigma/\sqrt n} \]
手順3
有意水準から棄却域を設定し、 実現値が入るか判定

最後の棄却域だけを覚えるのではなく、 帰無仮説を立てた世界から順番に考える ことが大切です。

最後に
仮説設定 → 分布 → 検定統計量 → 棄却域。
区間推定で身につけた流れを、 仮説検定へつなげて考える。
SUMMARY

母平均の仮説検定を整理する

手順0
仮説を設定
\(H_0:\mu=\mu_0\)
\(H_1:\mu\neq\mu_0\)
手順1
帰無仮説のもとで 標本平均の分布 を整理する
手順2
検定統計量 に変換する
手順3
棄却域 を設定して実現値と比較
母分散による使い分け
母分散が既知 \[ Z= \frac{\bar X-\mu_0} {\sigma/\sqrt n} \sim N(0,1) \]
母分散が未知 \[ T= \frac{\bar X-\mu_0} {\hat\sigma/\sqrt n} \sim t(n-1) \]
両側5%検定なら
\[ |Z|\ge z_{0.025} \] または \[ |T|\ge t_{0.025}(n-1) \]
この領域に検定統計量の実現値が入れば、 帰無仮説を棄却する。
特に注意する3点
① 仮説検定では最初に \(H_0,H_1\) を設定する
② 両側検定と片側検定では棄却域が異なる
③ 母分散が既知ならz、未知ならtを使う
最後に
帰無仮説 \(H_0\) の世界を仮定し、 その世界では起こりにくいほど極端な 検定統計量が観測されたかどうかを調べる。

これが母平均の仮説検定の基本構造。
NEXT STEP

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