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母平均の差の区間推定
互いに独立な2つの正規母集団から得られた2つの標本を使って、母平均の差 \(\mu_1-\mu_2\) を区間推定する方法を学びます。母分散が既知の場合と、未知で等しい場合を中心に、標準正規分布とt分布を使い分ける考え方を整理します。
このページのゴール
標本平均の差 \(d=\bar X-\bar Y\) の分布を整理し、母分散の条件に応じて母平均の差 \(\mu_1-\mu_2\) の信頼区間を求められるようになる。
STEP 01
2つの母集団から母平均の差を推定する
このレクチャーでは、
2つの母集団に関する区間推定
を見ていきます。
2つの母集団からそれぞれ標本を取り出して推定を行うため、
2標本問題
とも呼ばれます。
ここでも、
これまでの区間推定と同じように、
3つの手順
に分けて整理していきます。
手順1
どんな値が、どんな分布にしたがうか
を整理する
今回推定したいのは、
2つの母集団の
母平均の差
です。
\[
\mu_1-\mu_2
\]
ここがポイント
2つの標本を使って、
2つの母集団の平均の差
\(\mu_1-\mu_2\)
を区間推定する。
STEP 02
互いに独立な2つの正規母集団を考える
まず前提を整理します。
今回は、
互いに独立な2つの正規母集団
を考えます。
2つの母集団と2つの標本
母集団1
\[
X\sim N(\mu_1,\sigma_1^2)
\]
標本サイズ:\(m\)
母集団2
\[
Y\sim N(\mu_2,\sigma_2^2)
\]
標本サイズ:\(n\)
それぞれから独立に標本を抽出
1つ目の母集団の母平均を \(\mu_1\)、
2つ目の母集団の母平均を \(\mu_2\)
とします。
この2つの母集団から得られた標本を使って、
\[
\mu_1-\mu_2
\]
を区間で推定していきます。
前提
2つの母集団は正規母集団であり、
互いに独立である。
STEP 03
手順1:2つの標本平均の分布を整理する
まず、
それぞれの標本平均がどのような分布にしたがうかを
整理します。
母集団1から、
サンプルサイズ \(m\) の標本を抽出すると、
標本平均 \(\bar X\) は
\[
\bar X
\sim
N\left(
\mu_1,
\frac{\sigma_1^2}{m}
\right)
\]
にしたがいます。
同様に、
母集団2から
サンプルサイズ \(n\) の標本を抽出すると、
\[
\bar Y
\sim
N\left(
\mu_2,
\frac{\sigma_2^2}{n}
\right)
\]
となります。
標本1
平均
\[
\mu_1
\]
分散
\[
\frac{\sigma_1^2}{m}
\]
標本2
平均
\[
\mu_2
\]
分散
\[
\frac{\sigma_2^2}{n}
\]
今回知りたいのは
母平均の差 \(\mu_1-\mu_2\)
です。
そこで、
手元にある2つの標本平均の
差
を使うことを考えます。
\[
d=\bar X-\bar Y
\]
手順1の入口
母平均の差を推定したいので、
標本平均の差
\(d=\bar X-\bar Y\)
に注目する。
STEP 04
標本平均の差 \(d\) はどんな分布にしたがう?
標本平均の差を
\[
d=\bar X-\bar Y
\]
とおきます。
正規分布には、
正規分布にしたがう確率変数を足したり引いたりしても、
再び正規分布になるという
再生性
があります。
したがって、
\(d\) も正規分布にしたがいます。
\[
d
\sim
N\left(
\mu_1-\mu_2,\;
\frac{\sigma_1^2}{m}
+
\frac{\sigma_2^2}{n}
\right)
\]
平均と分散を分けて見る
平均
\[
E[d]
=
E[\bar X]-E[\bar Y]
=
\mu_1-\mu_2
\]
分散
\[
V[d]
=
\frac{\sigma_1^2}{m}
+
\frac{\sigma_2^2}{n}
\]
ここで特に注意したいのは、
分散の符号がプラスになる
ことです。
\(\bar X-\bar Y\) なのに、
なぜ分散は足す?
分散は「ばらつき」を表すため、
差をとったからといって
単純に分散を引くわけではありません。
一般には、
\[
V(A-B)
=
V(A)+V(B)-2\operatorname{Cov}(A,B)
\]
となります。
今回、
2つの標本は互いに独立なので、
\[
\operatorname{Cov}(\bar X,\bar Y)=0
\]
です。
\[
V(\bar X-\bar Y)
=
V(\bar X)+V(\bar Y)
\]
\[
=
\frac{\sigma_1^2}{m}
+
\frac{\sigma_2^2}{n}
\]
手順1の結論
\[
d
=
\bar X-\bar Y
\sim
N\left(
\mu_1-\mu_2,\;
\frac{\sigma_1^2}{m}
+
\frac{\sigma_2^2}{n}
\right)
\]
互いに独立なので、
共分散は0になる。
STEP 05
母分散が既知の場合|手順2:標準化する
まず、
2つの母分散
\(\sigma_1^2,\sigma_2^2\)
が
既知
の場合を考えます。
手順1で、
\[
d
\sim
N\left(
\mu_1-\mu_2,\;
\frac{\sigma_1^2}{m}
+
\frac{\sigma_2^2}{n}
\right)
\]
と整理できました。
したがって、
平均を引き、
標準偏差で割って標準化すると、
\[
Z
=
\frac{
d-(\mu_1-\mu_2)
}{
\sqrt{
\frac{\sigma_1^2}{m}
+
\frac{\sigma_2^2}{n}
}
}
\sim N(0,1)
\]
式をパーツで読む
観測する値
\(d=\bar X-\bar Y\)
平均
\(\mu_1-\mu_2\)
標準偏差
\[
\sqrt{
\frac{\sigma_1^2}{m}
+
\frac{\sigma_2^2}{n}
}
\]
手順2のポイント
母分散が既知なら、
標本平均の差 \(d\) を標準化して
標準正規分布を利用する。
STEP 06
母分散が既知の場合|手順3:95%信頼区間をつくる
標準正規分布にしたがう形まで整理できれば、
付表を使って確率を考えることができます。
95%信頼区間では、
中央95%を使うので、
\[
P\left(
-z_{0.025}
\le
Z
\le
z_{0.025}
\right)
=
0.95
\]
ここで、
\[
z_{0.025}\approx1.96
\]
です。
これを
\(\mu_1-\mu_2\)
について整理すると、
95%信頼区間は
\[
\begin{aligned}
d
–
1.96
\sqrt{
\frac{\sigma_1^2}{m}
+
\frac{\sigma_2^2}{n}
}
&\le
\mu_1-\mu_2
\\[5pt]
\mu_1-\mu_2
&\le
d
+
1.96
\sqrt{
\frac{\sigma_1^2}{m}
+
\frac{\sigma_2^2}{n}
}
\end{aligned}
\]
構造
標本平均の差 \(d\)
±
%点 × 標準誤差
母分散が既知なら
標準正規分布を使って、
母平均の差
\(\mu_1-\mu_2\)
の信頼区間を求める。
STEP 07
母分散が未知で等しい場合を考える
次に、
母分散が
未知
の場合を考えます。
今回はまず、
2つの母集団の母分散が
等しい
と仮定します。
\[
\sigma_1^2=\sigma_2^2=\sigma^2
\]
母分散が未知なので、
この \(\sigma^2\) を
標本から推定する必要があります。
ただし、
今回は標本が2つあるため、
標本1からは
\(\hat\sigma_1^2\)、
標本2からは
\(\hat\sigma_2^2\)
という
2つの不偏分散
が得られます。
2つの標本から2つの不偏分散
標本1
\[
\hat\sigma_1^2
\]
自由度
\[
m-1
\]
標本2
\[
\hat\sigma_2^2
\]
自由度
\[
n-1
\]
↓ 1つにまとめる
プールした分散
ここがポイント
母分散が未知で、かつ等しいと仮定する場合は、
2つの不偏分散をまとめた
「プールした分散」を使う。
STEP 08
2つの不偏分散を自由度でプールする
プールした分散は、
2つの不偏分散を
単純に足して2で割るのではありません。
それぞれの標本がもつ
自由度
を使って加重平均します。
\[
\hat\sigma^2
=
\frac{
(m-1)\hat\sigma_1^2
+
(n-1)\hat\sigma_2^2
}{
(m-1)+(n-1)
}
\]
これを、
加重平均として書くと、
\[
\hat\sigma^2
=
\frac{m-1}{(m-1)+(n-1)}
\hat\sigma_1^2
+
\frac{n-1}{(m-1)+(n-1)}
\hat\sigma_2^2
\]
標本1の重み
\[
\frac{m-1}{m+n-2}
\]
標本2の重み
\[
\frac{n-1}{m+n-2}
\]
標本サイズが大きく、
自由度が大きい標本ほど、
プールした分散に対して
大きな重みを持つことになります。
ここがポイント
プールした分散は、
2つの不偏分散を
自由度で加重平均したもの。
STEP 09
母分散が未知で等しい場合|t分布を使う
共通の母分散 \(\sigma^2\) を、
プールした分散 \(\hat\sigma^2\)
で推定します。
すると、
標本平均の差を標準化した
\[
T
=
\frac{
d-(\mu_1-\mu_2)
}{
\hat\sigma
\sqrt{
\frac{1}{m}
+
\frac{1}{n}
}
}
\]
は、
t分布にしたがいます。
\[
T\sim t(m+n-2)
\]
自由度は、
2つの不偏分散の自由度を足した
\[
(m-1)+(n-1)
=
m+n-2
\]
となります。
母分散が既知の場合との違い
母分散が既知
→ 標準正規分布 \(Z\)
母分散が未知で等しい
→ プールした分散を使った t分布
手順2のポイント
母分散が未知で等しい場合は、
プールした分散を使って標準化し、
自由度 \(m+n-2\) のt分布を使う。
STEP 10
t分布から母平均の差の信頼区間をつくる
t分布にしたがう形まで整理できれば、
あとは付表から%点を確認します。
信頼係数95%なら、
\[
P\left(
-t_{0.025}(m+n-2)
\le
T
\le
t_{0.025}(m+n-2)
\right)
=
0.95
\]
です。
これを
\(\mu_1-\mu_2\)
について整理すると、
\[
\begin{aligned}
d
–
t_{0.025}(m+n-2)
\hat\sigma
\sqrt{
\frac{1}{m}
+
\frac{1}{n}
}
&\le
\mu_1-\mu_2
\\[5pt]
\mu_1-\mu_2
&\le
d
+
t_{0.025}(m+n-2)
\hat\sigma
\sqrt{
\frac{1}{m}
+
\frac{1}{n}
}
\end{aligned}
\]
これが、
母分散が未知で、
かつ2つの母分散が等しいと仮定した場合の
母平均の差の95%信頼区間です。
母分散が未知で等しいなら
プールした分散と
自由度 \(m+n-2\) のt分布を使って
母平均の差を区間推定する。
STEP 11
母分散が未知で等しくない場合はどうする?
ここまで、
母分散が未知で、
さらに
\[
\sigma_1^2=\sigma_2^2
\]
と仮定できる場合を見てきました。
しかし実際には、
2つの母分散が
等しくない
場合もあります。
母分散が未知・等しい
\[
\sigma_1^2=\sigma_2^2
\]
2つの不偏分散を
プールした分散
にまとめて使う。
母分散が未知・等しくない
\[
\sigma_1^2\neq\sigma_2^2
\]
1つの分散にはまとめず、
\(\hat\sigma_1^2\) と
\(\hat\sigma_2^2\) をそれぞれ使う
。
つまり、
母分散が未知だからといって、
必ずプールした分散を使うわけではありません。
整理して覚える
母分散が未知 + 等しい
→ プールする
母分散が未知 + 等しくない
→ それぞれの不偏分散を使う
このレクチャーのスライドで示したt分布の式は、
2つの母分散が等しい場合
の式であることに注意しておきましょう。
ここがポイント
「母分散が未知」だけでなく、
「2つの母分散を等しいとみなせるか」
まで確認する。
STEP 12
zを使う場合とtを使う場合を図で比較する
最後に、
母分散が既知の場合と未知の場合を、
分布の図で比較しておきましょう。
t分布は標準正規分布よりも裾が厚いため、
同じ中央95%を確保しようとすると、
境界値はより外側になります。
したがって、
他の条件が同じなら、
母分散を推定しなければならないt分布の場合の方が、
信頼区間は広くなります。
最後に
母分散が既知ならz、
母分散が未知ならt。
母分散を推定する分だけ、
t分布を使う信頼区間は広くなる。
SUMMARY
母平均の差の区間推定を整理する
推定対象
2つの母集団の
母平均の差 \(\mu_1-\mu_2\)
手順1
標本平均の差
\(d=\bar X-\bar Y\)
の分布を整理する
手順2
母分散が既知なら
z、
未知なら
t
が使える形にする
手順3
中央95%の区間から
\(\mu_1-\mu_2\)
の信頼区間をつくる
標本平均の差の分布
\[
d
=
\bar X-\bar Y
\sim
N\left(
\mu_1-\mu_2,\;
\frac{\sigma_1^2}{m}
+
\frac{\sigma_2^2}{n}
\right)
\]
母分散によって方法が分かれる
母分散が既知
標準正規分布
z
を使う
母分散が未知・等しい
2つの不偏分散を
プール
してt分布を使う
母分散が未知・等しくない
2つの不偏分散を
それぞれ使う
母分散が未知・等しい場合のプールした分散
\[
\hat\sigma^2
=
\frac{
(m-1)\hat\sigma_1^2
+
(n-1)\hat\sigma_2^2
}{
m+n-2
}
\]
特に注意する3点
① \(d=\bar X-\bar Y\) でも分散は足し算になる
② 母分散が未知・等しい場合だけプールした分散を使う
③ 母分散が既知ならz、未知ならtを使う
最後に
まず
\(d=\bar X-\bar Y\)
の分布を整理し、
母分散が
「既知か未知か」
「未知なら等しいか等しくないか」
で方法を分ける。
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