スマホで統計学

35

母平均の差の区間推定

互いに独立な2つの正規母集団から得られた2つの標本を使って、母平均の差 \(\mu_1-\mu_2\) を区間推定する方法を学びます。母分散が既知の場合と、未知で等しい場合を中心に、標準正規分布とt分布を使い分ける考え方を整理します。
このページのゴール

標本平均の差 \(d=\bar X-\bar Y\) の分布を整理し、母分散の条件に応じて母平均の差 \(\mu_1-\mu_2\) の信頼区間を求められるようになる。

STEP 01

2つの母集団から母平均の差を推定する

このレクチャーでは、 2つの母集団に関する区間推定 を見ていきます。

2つの母集団からそれぞれ標本を取り出して推定を行うため、 2標本問題 とも呼ばれます。

ここでも、 これまでの区間推定と同じように、 3つの手順 に分けて整理していきます。

手順1
どんな値が、どんな分布にしたがうか を整理する
手順2
付表が使える形 に変形する
手順3
確率から母平均の差の区間 をつくる

今回推定したいのは、 2つの母集団の 母平均の差 です。

\[ \mu_1-\mu_2 \]
ここがポイント
2つの標本を使って、 2つの母集団の平均の差 \(\mu_1-\mu_2\) を区間推定する。
STEP 02

互いに独立な2つの正規母集団を考える

まず前提を整理します。

今回は、 互いに独立な2つの正規母集団 を考えます。

2つの母集団と2つの標本
母集団1
\[ X\sim N(\mu_1,\sigma_1^2) \] 標本サイズ:\(m\)
母集団2
\[ Y\sim N(\mu_2,\sigma_2^2) \] 標本サイズ:\(n\)
それぞれから独立に標本を抽出

1つ目の母集団の母平均を \(\mu_1\)、 2つ目の母集団の母平均を \(\mu_2\) とします。

この2つの母集団から得られた標本を使って、

\[ \mu_1-\mu_2 \]

を区間で推定していきます。

前提
2つの母集団は正規母集団であり、 互いに独立である。
STEP 03

手順1:2つの標本平均の分布を整理する

まず、 それぞれの標本平均がどのような分布にしたがうかを 整理します。

母集団1から、 サンプルサイズ \(m\) の標本を抽出すると、 標本平均 \(\bar X\) は

\[ \bar X \sim N\left( \mu_1, \frac{\sigma_1^2}{m} \right) \]

にしたがいます。

同様に、 母集団2から サンプルサイズ \(n\) の標本を抽出すると、

\[ \bar Y \sim N\left( \mu_2, \frac{\sigma_2^2}{n} \right) \]

となります。

標本1

平均 \[ \mu_1 \] 分散 \[ \frac{\sigma_1^2}{m} \]
標本2

平均 \[ \mu_2 \] 分散 \[ \frac{\sigma_2^2}{n} \]

今回知りたいのは 母平均の差 \(\mu_1-\mu_2\) です。

そこで、 手元にある2つの標本平均の を使うことを考えます。

\[ d=\bar X-\bar Y \]
手順1の入口
母平均の差を推定したいので、 標本平均の差 \(d=\bar X-\bar Y\) に注目する。
STEP 04

標本平均の差 \(d\) はどんな分布にしたがう?

標本平均の差を

\[ d=\bar X-\bar Y \]

とおきます。

正規分布には、 正規分布にしたがう確率変数を足したり引いたりしても、 再び正規分布になるという 再生性 があります。

したがって、 \(d\) も正規分布にしたがいます。

\[ d \sim N\left( \mu_1-\mu_2,\; \frac{\sigma_1^2}{m} + \frac{\sigma_2^2}{n} \right) \]
平均と分散を分けて見る
平均 \[ E[d] = E[\bar X]-E[\bar Y] = \mu_1-\mu_2 \]
分散 \[ V[d] = \frac{\sigma_1^2}{m} + \frac{\sigma_2^2}{n} \]

ここで特に注意したいのは、 分散の符号がプラスになる ことです。

\(\bar X-\bar Y\) なのに、 なぜ分散は足す?

分散は「ばらつき」を表すため、 差をとったからといって 単純に分散を引くわけではありません。

一般には、

\[ V(A-B) = V(A)+V(B)-2\operatorname{Cov}(A,B) \]

となります。

今回、 2つの標本は互いに独立なので、

\[ \operatorname{Cov}(\bar X,\bar Y)=0 \]

です。

\[ V(\bar X-\bar Y) = V(\bar X)+V(\bar Y) \] \[ = \frac{\sigma_1^2}{m} + \frac{\sigma_2^2}{n} \]
手順1の結論
\[ d = \bar X-\bar Y \sim N\left( \mu_1-\mu_2,\; \frac{\sigma_1^2}{m} + \frac{\sigma_2^2}{n} \right) \] 互いに独立なので、 共分散は0になる。
STEP 05

母分散が既知の場合|手順2:標準化する

まず、 2つの母分散 \(\sigma_1^2,\sigma_2^2\) が 既知 の場合を考えます。

手順1で、

\[ d \sim N\left( \mu_1-\mu_2,\; \frac{\sigma_1^2}{m} + \frac{\sigma_2^2}{n} \right) \]

と整理できました。

したがって、 平均を引き、 標準偏差で割って標準化すると、

\[ Z = \frac{ d-(\mu_1-\mu_2) }{ \sqrt{ \frac{\sigma_1^2}{m} + \frac{\sigma_2^2}{n} } } \sim N(0,1) \]
式をパーツで読む
観測する値
\(d=\bar X-\bar Y\)
平均
\(\mu_1-\mu_2\)
標準偏差
\[ \sqrt{ \frac{\sigma_1^2}{m} + \frac{\sigma_2^2}{n} } \]
手順2のポイント
母分散が既知なら、 標本平均の差 \(d\) を標準化して 標準正規分布を利用する。
STEP 06

母分散が既知の場合|手順3:95%信頼区間をつくる

標準正規分布にしたがう形まで整理できれば、 付表を使って確率を考えることができます。

95%信頼区間では、 中央95%を使うので、

\[ P\left( -z_{0.025} \le Z \le z_{0.025} \right) = 0.95 \]

ここで、

\[ z_{0.025}\approx1.96 \]

です。

これを \(\mu_1-\mu_2\) について整理すると、 95%信頼区間は

\[ \begin{aligned} d – 1.96 \sqrt{ \frac{\sigma_1^2}{m} + \frac{\sigma_2^2}{n} } &\le \mu_1-\mu_2 \\[5pt] \mu_1-\mu_2 &\le d + 1.96 \sqrt{ \frac{\sigma_1^2}{m} + \frac{\sigma_2^2}{n} } \end{aligned} \]
構造

標本平均の差 \(d\)
±
%点 × 標準誤差
母分散が既知なら
標準正規分布を使って、 母平均の差 \(\mu_1-\mu_2\) の信頼区間を求める。
STEP 07

母分散が未知で等しい場合を考える

次に、 母分散が 未知 の場合を考えます。

今回はまず、 2つの母集団の母分散が 等しい と仮定します。

\[ \sigma_1^2=\sigma_2^2=\sigma^2 \]

母分散が未知なので、 この \(\sigma^2\) を 標本から推定する必要があります。

ただし、 今回は標本が2つあるため、 標本1からは \(\hat\sigma_1^2\)、 標本2からは \(\hat\sigma_2^2\) という 2つの不偏分散 が得られます。

2つの標本から2つの不偏分散
標本1 \[ \hat\sigma_1^2 \] 自由度 \[ m-1 \]
標本2 \[ \hat\sigma_2^2 \] 自由度 \[ n-1 \]
↓ 1つにまとめる
プールした分散
ここがポイント
母分散が未知で、かつ等しいと仮定する場合は、 2つの不偏分散をまとめた 「プールした分散」を使う。
STEP 08

2つの不偏分散を自由度でプールする

プールした分散は、 2つの不偏分散を 単純に足して2で割るのではありません。

それぞれの標本がもつ 自由度 を使って加重平均します。

\[ \hat\sigma^2 = \frac{ (m-1)\hat\sigma_1^2 + (n-1)\hat\sigma_2^2 }{ (m-1)+(n-1) } \]

これを、 加重平均として書くと、

\[ \hat\sigma^2 = \frac{m-1}{(m-1)+(n-1)} \hat\sigma_1^2 + \frac{n-1}{(m-1)+(n-1)} \hat\sigma_2^2 \]
標本1の重み \[ \frac{m-1}{m+n-2} \]
標本2の重み \[ \frac{n-1}{m+n-2} \]

標本サイズが大きく、 自由度が大きい標本ほど、 プールした分散に対して 大きな重みを持つことになります。

ここがポイント
プールした分散は、 2つの不偏分散を 自由度で加重平均したもの。
STEP 09

母分散が未知で等しい場合|t分布を使う

共通の母分散 \(\sigma^2\) を、 プールした分散 \(\hat\sigma^2\) で推定します。

すると、 標本平均の差を標準化した

\[ T = \frac{ d-(\mu_1-\mu_2) }{ \hat\sigma \sqrt{ \frac{1}{m} + \frac{1}{n} } } \]

は、 t分布にしたがいます。

\[ T\sim t(m+n-2) \]

自由度は、 2つの不偏分散の自由度を足した

\[ (m-1)+(n-1) = m+n-2 \]

となります。

母分散が既知の場合との違い

母分散が既知 → 標準正規分布 \(Z\)
母分散が未知で等しい → プールした分散を使った t分布
手順2のポイント
母分散が未知で等しい場合は、 プールした分散を使って標準化し、 自由度 \(m+n-2\) のt分布を使う。
STEP 10

t分布から母平均の差の信頼区間をつくる

t分布にしたがう形まで整理できれば、 あとは付表から%点を確認します。

信頼係数95%なら、

\[ P\left( -t_{0.025}(m+n-2) \le T \le t_{0.025}(m+n-2) \right) = 0.95 \]

です。

これを \(\mu_1-\mu_2\) について整理すると、

\[ \begin{aligned} d – t_{0.025}(m+n-2) \hat\sigma \sqrt{ \frac{1}{m} + \frac{1}{n} } &\le \mu_1-\mu_2 \\[5pt] \mu_1-\mu_2 &\le d + t_{0.025}(m+n-2) \hat\sigma \sqrt{ \frac{1}{m} + \frac{1}{n} } \end{aligned} \]

これが、 母分散が未知で、 かつ2つの母分散が等しいと仮定した場合の 母平均の差の95%信頼区間です。

母分散が未知で等しいなら
プールした分散と 自由度 \(m+n-2\) のt分布を使って 母平均の差を区間推定する。
STEP 11

母分散が未知で等しくない場合はどうする?

ここまで、 母分散が未知で、 さらに

\[ \sigma_1^2=\sigma_2^2 \]

と仮定できる場合を見てきました。

しかし実際には、 2つの母分散が 等しくない 場合もあります。

母分散が未知・等しい
\[ \sigma_1^2=\sigma_2^2 \]
2つの不偏分散を プールした分散 にまとめて使う。
母分散が未知・等しくない
\[ \sigma_1^2\neq\sigma_2^2 \]
1つの分散にはまとめず、 \(\hat\sigma_1^2\) と \(\hat\sigma_2^2\) をそれぞれ使う

つまり、 母分散が未知だからといって、 必ずプールした分散を使うわけではありません。

整理して覚える

母分散が未知 + 等しい
プールする

母分散が未知 + 等しくない
それぞれの不偏分散を使う

このレクチャーのスライドで示したt分布の式は、 2つの母分散が等しい場合 の式であることに注意しておきましょう。

ここがポイント
「母分散が未知」だけでなく、 「2つの母分散を等しいとみなせるか」 まで確認する。
STEP 12

zを使う場合とtを使う場合を図で比較する

最後に、 母分散が既知の場合と未知の場合を、 分布の図で比較しておきましょう。

母分散が既知の場合
95%
標準正規分布を使う
母分散が未知の場合
95%
t分布を使う

t分布は標準正規分布よりも裾が厚いため、 同じ中央95%を確保しようとすると、 境界値はより外側になります。

したがって、 他の条件が同じなら、 母分散を推定しなければならないt分布の場合の方が、 信頼区間は広くなります。

最後に
母分散が既知ならz、
母分散が未知ならt。
母分散を推定する分だけ、 t分布を使う信頼区間は広くなる。
SUMMARY

母平均の差の区間推定を整理する

推定対象
2つの母集団の 母平均の差 \(\mu_1-\mu_2\)
手順1
標本平均の差 \(d=\bar X-\bar Y\) の分布を整理する
手順2
母分散が既知なら z、 未知なら t が使える形にする
手順3
中央95%の区間から \(\mu_1-\mu_2\) の信頼区間をつくる
標本平均の差の分布
\[ d = \bar X-\bar Y \sim N\left( \mu_1-\mu_2,\; \frac{\sigma_1^2}{m} + \frac{\sigma_2^2}{n} \right) \]
母分散によって方法が分かれる
母分散が既知
標準正規分布 z を使う
母分散が未知・等しい
2つの不偏分散を プール してt分布を使う
母分散が未知・等しくない
2つの不偏分散を それぞれ使う
母分散が未知・等しい場合のプールした分散
\[ \hat\sigma^2 = \frac{ (m-1)\hat\sigma_1^2 + (n-1)\hat\sigma_2^2 }{ m+n-2 } \]
特に注意する3点
① \(d=\bar X-\bar Y\) でも分散は足し算になる
② 母分散が未知・等しい場合だけプールした分散を使う
③ 母分散が既知ならz、未知ならtを使う
最後に
まず \(d=\bar X-\bar Y\) の分布を整理し、
母分散が 「既知か未知か」 「未知なら等しいか等しくないか」 で方法を分ける。
NEXT STEP

次のステップ:統計検定®2級を目指す

このサイトで統計学の基礎を学んだあと、 統計検定®2級の合格まで体系的に学びたい方へ。

統計検定®2級対策講座【ベストセラー版】

約9時間の動画講義と200問以上の小テストに加えて、 模擬試験にも取り組めます。 講座内ではQ&Aも利用でき、 これまでに400問以上の質問に回答してきました。

約9時間の動画講義
200問以上の小テスト
模擬試験
400問以上のQ&A
統計検定®2級対策講座を見る
資格試験ではなく、統計学そのものを動画で学びたい方へ

記述統計・確率・推定・検定を基礎から学ぶ 「統計学ベーシック講座その1『確率分布・推定・検定』」 も用意しています。

統計学ベーシック講座を見る →