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母分散の比の区間推定

互いに独立な2つの正規母集団から得られた2標本を使って、母分散の比を区間推定する方法を学びます。カイ二乗分布からF分布を導き、2つの母集団のばらつきの違いを確率的に捉えていきます。
このページのゴール

2つの標本分散をカイ二乗分布・F分布と結びつけ、母分散の比 \(\sigma_y^2/\sigma_x^2\) の信頼区間を求められるようになる。

STEP 01

2つの母集団の「ばらつきの比」を推定する

このレクチャーでは、 2標本問題として 母分散の比の区間推定 を見ていきます。

母分散の比とは、 2つの母集団の ばらつきの大きさを比べる ためのものです。

たとえば2つの製造ライン
ラインX
重さのばらつき
ラインY
重さのばらつき
2つのラインの 母分散の比 を使って、
ばらつきの違いを区間で推定する

今回は、 次の母分散の比を推定していきます。

\[ \frac{\sigma_y^2}{\sigma_x^2} \]

ここでも、 これまでの区間推定と同じ 3つの手順 で考えます。

手順1
2つの標本分散を カイ二乗分布 と結びつける
手順2
2つの値の比をとり、 F分布 が使える形にする
手順3
F分布の確率から 母分散の比の区間 をつくる
ここがポイント
2つの母集団の「ばらつき」を比較するために、 母分散の比を区間推定する。
STEP 02

互いに独立な2つの正規母集団を考える

今回も、 互いに独立な2つの正規母集団 を前提とします。

2つの母集団から、それぞれ標本を抽出する
母集団X
\[ X_1,\ldots,X_m \sim N(\mu_x,\sigma_x^2) \]
サンプルサイズ \(m\)
母集団Y
\[ Y_1,\ldots,Y_n \sim N(\mu_y,\sigma_y^2) \]
サンプルサイズ \(n\)

この2つの標本を使って、 母分散 \(\sigma_x^2\) と \(\sigma_y^2\) の比を推定します。

\[ \frac{\sigma_y^2}{\sigma_x^2} \]
前提
2つの標本は、 互いに独立な正規母集団から得られている。
STEP 03

手順1:2つの標本分散をカイ二乗分布と結びつける

今回知りたいのは 母分散 です。

分散の推定といえば、 1標本問題でも使った カイ二乗分布 を利用します。

標本Xについて、 不偏分散を \(\hat\sigma_x^2\) とすると、

\[ W_1 = \frac{ (m-1)\hat\sigma_x^2 }{ \sigma_x^2 } \sim \chi^2(m-1) \]

同様に、 標本Yについては、

\[ W_2 = \frac{ (n-1)\hat\sigma_y^2 }{ \sigma_y^2 } \sim \chi^2(n-1) \]
2つの標本を同じ形に整理
標本X \[ W_1 = \frac{(m-1)\hat\sigma_x^2}{\sigma_x^2} \] \[ \chi^2(m-1) \]
標本Y \[ W_2 = \frac{(n-1)\hat\sigma_y^2}{\sigma_y^2} \] \[ \chi^2(n-1) \]
手順1の結論
2つの標本分散を、 それぞれカイ二乗分布にしたがう形へ変換する。
STEP 04

なぜ自由度は \(m-1\)、\(n-1\) なのか

\(W_1\) と \(W_2\) の自由度が、 それぞれ \(m-1\)、\(n-1\) になっている点も確認しておきましょう。

標本Xについて、 母平均 \(\mu_x\) は未知なので、 ばらつきを計算するときには 標本平均 \(\bar X\) を使います。

標本平均を使うと自由度を1つ使う
\[ \sum_{i=1}^{m} (X_i-\bar X)=0 \]
\(m\) 個の偏差のうち、自由に決められるのは \(m-1\) 個

そのため、 標本Xの偏差平方和から作られる値は 自由度 \(m-1\) のカイ二乗分布にしたがいます。

標本Yについても同様で、 標本平均 \(\bar Y\) を使うため、 自由度は \(n-1\) になります。

標本X
自由度 \(m-1\)
標本Y
自由度 \(n-1\)
ここがポイント
標本平均を使って偏差平方和を計算するため、 それぞれ自由度が1つ減る。
STEP 05

カイ二乗分布が2つあればF分布を考える

ここまでで、 2つの値 \(W_1\) と \(W_2\) が、 それぞれカイ二乗分布にしたがう形になりました。

ここで思い出したいのが F分布 です。

F分布のつくり方
カイ二乗分布にしたがう二乗和
↓ 自由度で割る
平均平方和
↓ 2つの比をとる
F分布

つまり、 カイ二乗分布にしたがう2つの値を それぞれの自由度で割り、 その比をとるとF分布が現れます。

\[ F = \frac{ W_1/(m-1) }{ W_2/(n-1) } \]
F分布を思い出す
「カイ二乗分布にしたがう2つの値」 が出てきたら、 自由度で割った比=F分布を考える。
STEP 06

手順2:母分散の比が入った形に整理する

先ほどのFの式に、 \(W_1\) と \(W_2\) を代入します。

\[ F = \frac{ W_1/(m-1) }{ W_2/(n-1) } \]
↓ \(W_1,W_2\) を代入
\[ F = \frac{ \hat\sigma_x^2/\sigma_x^2 }{ \hat\sigma_y^2/\sigma_y^2 } \]
↓ 分数を整理
\[ F = \frac{\hat\sigma_x^2} {\hat\sigma_y^2} \times \frac{\sigma_y^2} {\sigma_x^2} \]

ここで重要なのは、 最終的に推定したい

\[ \frac{\sigma_y^2}{\sigma_x^2} \]

という 母分散の比 がFの式の中に入ったことです。

手順2のポイント
2つの平均平方和の比をとることで、 推定したい母分散の比を F分布の式の中に組み込む。
STEP 07

F分布の自由度は「分子 → 分母」の順

このFは、 次のF分布にしたがいます。

\[ F \sim F(m-1,n-1) \]

F分布では、 自由度の順番 が重要です。

分子 \[ \frac{W_1}{m-1} \] 自由度 \(m-1\)
↓ 第1引数
\(F(\boxed{m-1},\,n-1)\)
分母 \[ \frac{W_2}{n-1} \] 自由度 \(n-1\)
↓ 第2引数
\(F(m-1,\,\boxed{n-1})\)
覚え方
F分布の自由度は、 分子の自由度 → 分母の自由度 の順です。
ここがポイント
今回は \(F(m-1,n-1)\)。
順序を逆にしないように注意する。
STEP 08

手順3:F分布の中央95%を考える

F分布にしたがう形まで整理できたので、 付表を使って具体的な確率を考えます。

信頼係数95%なら、 両端に2.5%ずつを残し、 中央95% の区間を考えます。

F分布の中央95%
95% 2.5% 2.5%
左側の境界
上側97.5%点
右側の境界
上側2.5%点

これまでと同じ 上側%点 の記法を使うと、

\[ P\left( F_{0.975}(m-1,n-1) \le F \le F_{0.025}(m-1,n-1) \right) = 0.95 \]
%点の意味
\(F_{0.025}(m-1,n-1)\) は、 自由度 \(m-1,n-1\) のF分布で 右側の確率が2.5% になる境界値です。
手順3のポイント
F分布は左右対称ではないので、 左右の境界値をそれぞれ付表から確認する。
STEP 09

母分散の比について不等式を整理する

ここまでで、

\[ F = \frac{\hat\sigma_x^2} {\hat\sigma_y^2} \times \frac{\sigma_y^2} {\sigma_x^2} \]

と整理できています。

これをF分布の中央95%の区間に代入します。

\[ F_{0.975}(m-1,n-1) \le F \le F_{0.025}(m-1,n-1) \]
↓ \(F\) を代入
\[ F_{0.975}(m-1,n-1) \le \frac{\hat\sigma_x^2}{\hat\sigma_y^2} \frac{\sigma_y^2}{\sigma_x^2} \le F_{0.025}(m-1,n-1) \]
↓ 母分散の比について整理
\[ \begin{aligned} F_{0.975}(m-1,n-1) \frac{\hat\sigma_y^2}{\hat\sigma_x^2} &\le \frac{\sigma_y^2}{\sigma_x^2} \\[5pt] \frac{\sigma_y^2}{\sigma_x^2} &\le F_{0.025}(m-1,n-1) \frac{\hat\sigma_y^2}{\hat\sigma_x^2} \end{aligned} \]

これが、 母分散の比 \(\sigma_y^2/\sigma_x^2\) の95%信頼区間です。

最終式の構造
F分布の%点
×
標本分散の比 \[ \frac{\hat\sigma_y^2}{\hat\sigma_x^2} \]
母分散の比の信頼区間
ここがポイント
F分布の%点と標本分散の比を使って、 母分散の比の信頼区間をつくる。
STEP 10

F分布が「ばらつきの比較」に使われる理由

F分布は、 右側に長い裾をもつ 左右非対称の分布です。

F分布
1
平均平方和どうしの がしたがう分布

2つの分散がほぼ同じなら、 その比は1に近くなります。

\[ \frac{\sigma_y^2}{\sigma_x^2} \approx 1 \]

一方、 2つのばらつきに大きな違いがあれば、 分散の比も1から離れていきます。

このように、 ばらつきの大きさを比で比較する場面 でF分布が重要な役割を果たします。

F分布の役割
カイ二乗分布が 「1つのばらつき」を扱うのに対して、
F分布は 「2つのばらつきの比」 を扱うときに活躍します。
最後に
2つの平均平方和の比がF分布にしたがうため、 F分布を使って母分散の比を区間推定できる。
STEP 11

母分散の比の区間推定を3つの手順で整理する

手順1
2つの標本分散をカイ二乗分布へ
\[ W_1 = \frac{(m-1)\hat\sigma_x^2}{\sigma_x^2} \sim\chi^2(m-1) \] \[ W_2 = \frac{(n-1)\hat\sigma_y^2}{\sigma_y^2} \sim\chi^2(n-1) \]
手順2
自由度で割った比をとる
\[ F = \frac{W_1/(m-1)}{W_2/(n-1)} = \frac{\hat\sigma_x^2}{\hat\sigma_y^2} \frac{\sigma_y^2}{\sigma_x^2} \]
\[ F\sim F(m-1,n-1) \]
手順3
F分布の中央95%から区間をつくる
\[ \begin{aligned} F_{0.975}(m-1,n-1) \frac{\hat\sigma_y^2}{\hat\sigma_x^2} &\le \frac{\sigma_y^2}{\sigma_x^2} \\[5pt] \frac{\sigma_y^2}{\sigma_x^2} &\le F_{0.025}(m-1,n-1) \frac{\hat\sigma_y^2}{\hat\sigma_x^2} \end{aligned} \]
最後に
カイ二乗分布 → 平均平方和 → F分布 → 母分散の比の信頼区間、 という流れで整理する。
SUMMARY

母分散の比の区間推定を整理する

推定対象
2つの母集団の 母分散の比 \[ \frac{\sigma_y^2}{\sigma_x^2} \]
手順1
2つの標本分散を カイ二乗分布 にしたがう形へ整理
手順2
平均平方和の比をとって F分布 が使える形にする
手順3
F分布の中央95%を使って 母分散の比の区間 を求める
カイ二乗分布への変換
\[ W_1 = \frac{(m-1)\hat\sigma_x^2}{\sigma_x^2} \sim\chi^2(m-1) \] \[ W_2 = \frac{(n-1)\hat\sigma_y^2}{\sigma_y^2} \sim\chi^2(n-1) \]
F分布への変換
\[ F = \frac{W_1/(m-1)}{W_2/(n-1)} = \frac{\hat\sigma_x^2}{\hat\sigma_y^2} \frac{\sigma_y^2}{\sigma_x^2} \] \[ F\sim F(m-1,n-1) \]
母分散の比の95%信頼区間
\[ \begin{aligned} F_{0.975}(m-1,n-1) \frac{\hat\sigma_y^2}{\hat\sigma_x^2} &\le \frac{\sigma_y^2}{\sigma_x^2} \\[5pt] \frac{\sigma_y^2}{\sigma_x^2} &\le F_{0.025}(m-1,n-1) \frac{\hat\sigma_y^2}{\hat\sigma_x^2} \end{aligned} \]
特に注意する3点
① 2つの母集団は互いに独立な正規母集団
② F分布の自由度は「分子 → 分母」の順
③ F分布は左右非対称なので、左右の%点をそれぞれ確認する
最後に
1つの分散ならカイ二乗分布、
2つの分散の比ならF分布。

「二乗和を自由度で平均したものの比」が F分布にしたがうことを軸に理解する。
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