スマホで統計学

23

標本平均の期待値と分散

同じ分布から得られた複数のデータを平均すると、その平均にはどのような性質が現れるのでしょうか。標本平均では、「中心は変わらないのに、ばらつきは小さくなる」という重要な性質が現れます。
このページのゴール

標本平均にも確率分布があることを理解し、その期待値が \(\mu\)、分散が \(\sigma^2/n\) になる理由を、図と数式の両方から説明できるようになる。

STEP 01

標本平均とは何か

母集団から取り出したデータの一部を、 標本またはサンプルといいます。

ここでは、\(X_1,X_2,\ldots,X_n\) という \(n\) 個の確率変数が、 次の条件を満たしているとします。

・互いに独立である
・すべて同じ確率分布にしたがう
・その分布の平均は \(\mu\)
・その分布の分散は \(\sigma^2\)

この \(n\) 個のデータをすべて足して、\(n\) で割ったものを 標本平均といいます。

同じ分布から独立に得られた \(n\) 個のデータ
\(X_1\)
\(X_2\)
\(X_n\)
平均をとる
\[ \bar{X} = \frac{X_1+X_2+\cdots+X_n}{n} \]

ここで重要なのは、 元の確率分布が正規分布であるとは仮定していない ことです。

これから確認する標本平均の期待値と分散の性質は、 正規分布だけに限った話ではありません。

ここがポイント
同じ分布から得られた \(n\) 個のデータを平均したものが、標本平均 \(\bar{X}\)。
STEP 02

標本平均にも「分布」がある

ここで、1つ疑問が出てきます。

標本平均は、手元のデータを平均して得られる1つの値です。 それなのに、なぜ標本平均の「期待値」や「分散」を考えるのでしょうか。

ポイントは、 標本を取り直せば、得られる標本平均も変わる ことです。

同じ母集団から何度も標本をとる
1回目
\(X_1,\ X_2,\ \ldots,\ X_n\)
標本平均 \(\bar{X}_1\)
2回目
\(X_1,\ X_2,\ \ldots,\ X_n\)
標本平均 \(\bar{X}_2\)
3回目
\(X_1,\ X_2,\ \ldots,\ X_n\)
標本平均 \(\bar{X}_3\)
標本平均そのものにも
確率分布ができる

標本を取り直すたびに、得られる \(\bar{X}\) は少しずつ変わります。 したがって、\(\bar{X}\) 自体も確率変数として考えることができます。

標本平均の中心はどこか?
標本平均はどのくらいばらつくのか?

これを表すのが、標本平均の期待値分散です。

ここがポイント
標本を取り直せば \(\bar{X}\) も変わる。だから標本平均にも分布がある。
STEP 03

標本平均の中心は変わらない

まず、標本平均の分布の中心を考えます。

\(X_1,X_2,\ldots,X_n\) はすべて、 平均 \(\mu\) の同じ確率分布にしたがっています。

それぞれの中心
\(X_1\)
\(\mu\)
\(X_2\)
\(\mu\)
\(X_n\)
\(\mu\)
平均をとっても
中心は \(\mu\)

数式でも確認してみましょう。

\[ E[\bar{X}] = E\left[ \frac{X_1+X_2+\cdots+X_n}{n} \right] \]

\(n\) は定数なので、\(1/n\) を期待値の外に出すことができます。

\[ = \frac{1}{n} E[X_1+X_2+\cdots+X_n] \]

期待値には加法性があるため、

\[ = \frac{1}{n} \left( E[X_1]+E[X_2]+\cdots+E[X_n] \right) \]

それぞれの期待値は \(\mu\) なので、

\[ = \frac{\mu+\mu+\cdots+\mu}{n} = \frac{n\mu}{n} = \mu \]
標本平均の期待値
\[ E[\bar{X}]=\mu \]

つまり、標本抽出を何度も繰り返して標本平均を計算すると、 その標本平均たちの中心は、もとの分布の平均 \(\mu\) と一致します。

もとの分布
\(\mu\)
標本平均
\(\mu\)
中心は変わらない
ここがポイント
データを平均しても、標本平均の分布の中心は \(\mu\) のまま。
STEP 04

標本平均のばらつきは小さくなる

次に、標本平均がどのくらいばらつくのかを考えます。

ここで重要になるのが、 \(X_1,X_2,\ldots,X_n\) が互いに独立だという条件です。

独立
\[ \operatorname{Cov}(X_i,X_j)=0 \qquad (i\neq j) \]
異なる標本どうしの共分散は0
注意
ここで使っているのは 「独立なら共分散は0」 という性質です。 共分散が0だからといって、一般に独立とは限りません。

では、標本平均の分散を計算してみましょう。

\[ V[\bar{X}] = V\left[ \frac{X_1+X_2+\cdots+X_n}{n} \right] \]

分散では、定数倍を外に出すとき、その定数は2乗になります。

\[ V[aX]=a^2V[X] \]

したがって、

\[ V[\bar{X}] = \frac{1}{n^2} V[X_1+X_2+\cdots+X_n] \]

\(X_1,\ldots,X_n\) は互いに独立なので、 異なる確率変数どうしの共分散は0です。

そのため、和の分散はそれぞれの分散を足すだけで求められます。

和の分散
\[ V[X_1+X_2+\cdots+X_n] \]
\[ V[X_1]+V[X_2]+\cdots+V[X_n] \]

それぞれの分散は \(\sigma^2\) なので、

\[ \sigma^2+\sigma^2+\cdots+\sigma^2 = n\sigma^2 \]

よって、

\[ V[\bar{X}] = \frac{n\sigma^2}{n^2} = \frac{\sigma^2}{n} \]
標本平均の分散
\[ V[\bar{X}] = \frac{\sigma^2}{n} \]

元の確率分布の分散は \(\sigma^2\) でした。 一方、標本平均の分散は \(\sigma^2/n\) です。

もとの分布
分散 \(\sigma^2\)
標本平均
分散 \(\sigma^2/n\)
ばらつきは小さくなる
ここがポイント
\(n\) 個の独立なデータを平均すると、標本平均の分散は元の \(1/n\) になる。
STEP 05

\(n\) を増やすと何が起こる?

ここまでの結果を並べると、標本平均の性質はとてもシンプルです。

中心
もとの分布
\(\mu\)
標本平均
\(\mu\)
変わらない
ばらつき
もとの分布
\(\sigma^2\)
標本平均
\(\sigma^2/n\)
小さくなる

さらに、\(n\) を大きくするほど標本平均の分散は小さくなっていきます。

標本平均の分散
\(n=1\)
\(\sigma^2\)
\(n=4\)
\(\sigma^2/4\)
\(n=10\)
\(\sigma^2/10\)

つまり、標本数を増やして平均をとるほど、 標本平均は \(\mu\) のまわりに集まりやすくなります。

標本平均 もとの分布 μ

上の図では、もとの分布と標本平均の分布を模式的に重ねています。 どちらも中心は \(\mu\) ですが、標本平均の方が広がりが小さくなっています。

ここで本当に重要なのは、

\[ E[\bar{X}]=\mu \]

\[ V[\bar{X}] = \frac{\sigma^2}{n} \]

という2つの性質です。

標準偏差も意識しよう
標本平均の分散は \[ \frac{\sigma^2}{n} \] ですが、標準偏差は \[ \frac{\sigma}{\sqrt{n}} \] です。 分布の横方向の広がりを考えるときには、 この標準偏差を見ると理解しやすくなります。

この性質は、このあと学ぶ区間推定や仮説検定の土台になります。

ここがポイント
\(n\) を増やしても中心は \(\mu\) のまま。標本平均のばらつきだけが小さくなる。
SUMMARY

標本平均の期待値と分散を整理する

標本平均
\(n\) 個の標本を足して \(n\) で割ったもの
分布
標本を取り直せば \(\bar{X}\) も変わるため、 標本平均にも確率分布がある
期待値
標本平均の中心は もとの分布の平均 \(\mu\) と同じ
分散
標本平均のばらつきは もとの分散の \(1/n\)
独立性
独立なら異なる標本どうしの 共分散は0
重要公式
\[ E[\bar{X}] = \mu \]
\[ V[\bar{X}] = \frac{\sigma^2}{n} \]
\[ SD[\bar{X}] = \frac{\sigma}{\sqrt{n}} \]
独立 ⇒ 共分散0 は成り立ちますが、 共分散0 ⇒ 独立 は一般には成り立ちません。
最後に
標本平均では、中心は \(\mu\) のまま。
\(n\) を増やすほど、ばらつきは小さくなる。
NEXT STEP

次のステップ:統計検定®2級を目指す

このサイトで統計学の基礎を学んだあと、 統計検定®2級の合格まで体系的に学びたい方へ。

統計検定®2級対策講座【ベストセラー版】

約9時間の動画講義と200問以上の小テストに加えて、 模擬試験にも取り組めます。 講座内ではQ&Aも利用でき、 これまでに400問以上の質問に回答してきました。

約9時間の動画講義
200問以上の小テスト
模擬試験
400問以上のQ&A
統計検定®2級対策講座を見る
資格試験ではなく、統計学そのものを動画で学びたい方へ

記述統計・確率・推定・検定を基礎から学ぶ 「統計学ベーシック講座その1『確率分布・推定・検定』」 も用意しています。

統計学ベーシック講座を見る →