42
母平均の差の仮説検定
互いに独立な2つの正規母集団から得られた2標本を使って、母平均の差 \(\mu_1-\mu_2\) に関する仮説検定を学びます。母分散が既知の場合は標準正規分布、未知で等しい場合はプールした分散とt分布を使って、帰無仮説を棄却するかどうかを判断します。
このページのゴール
2つの母平均の差について帰無仮説を設定し、標本平均の差の分布を整理したうえで、母分散の条件に応じた検定統計量と棄却域を求め、仮説検定を実行できるようになる。
STEP 01
2つの母集団の母平均の差を検定する
このレクチャーでは、
2つの母集団に関する仮説検定
を見ていきます。
今回検定したいのは、
2つの母集団の
母平均の差
です。
\[
\mu_1-\mu_2
\]
前提として、
互いに独立な2つの正規母集団
を考えます。
2つの正規母集団
母集団1
母平均 \(\mu_1\)、母分散 \(\sigma_1^2\)
母集団2
母平均 \(\mu_2\)、母分散 \(\sigma_2^2\)
この2つの母集団から得られた2標本を使って、
母平均の差に関する仮説を検定します。
今回のテーマ
2つの独立な正規母集団について、
母平均の差を検定する。
STEP 02
手順0:帰無仮説と対立仮説を設定する
仮説検定なので、
まずは
帰無仮説 \(H_0\)
と
対立仮説 \(H_1\)
を設定します。
今回は、
2つの母平均に
差がない
という世界を帰無仮説とします。
帰無仮説
\[
H_0:\mu_1-\mu_2=0
\]
対立仮説
\[
H_1:\mu_1-\mu_2\neq0
\]
このように、
「2つの母平均に差がない」
という帰無仮説を検定する場面はよくあります。
ただし、
問いの立て方によっては
\[
H_0:\mu_1-\mu_2=c
\]
のように、
差を0以外の具体的な値に設定することもできます。
手順0
今回は
\(H_0:\mu_1-\mu_2=0\)
として、
「母平均に差がない」という仮説を検定する。
STEP 03
手順1:2つの標本平均の分布を整理する
1つ目の母集団から
サンプルサイズ \(m\) の標本を、
2つ目の母集団から
サンプルサイズ \(n\) の標本を抽出します。
それぞれの標本平均は、
\[
\bar X
\sim
N\left(
\mu_1,\frac{\sigma_1^2}{m}
\right)
\]
\[
\bar Y
\sim
N\left(
\mu_2,\frac{\sigma_2^2}{n}
\right)
\]
にしたがいます。
今回検定したいのは
母平均の差なので、
標本平均の差
\[
d=\bar X-\bar Y
\]
を考えます。
すると、
\[
d
\sim
N\left(
\mu_1-\mu_2,\;
\frac{\sigma_1^2}{m}
+
\frac{\sigma_2^2}{n}
\right)
\]
となります。
STEP 04
差をとっても分散は足し算になる
ここで注意したいのが、
標本平均の差
\(\bar X-\bar Y\)
の分散です。
\[
V(\bar X-\bar Y)
=
V(\bar X)
+
V(\bar Y)
–
2\operatorname{Cov}(\bar X,\bar Y)
\]
今回は、
2つの標本が互いに独立なので、
\[
\operatorname{Cov}(\bar X,\bar Y)=0
\]
です。
したがって、
\[
V(\bar X-\bar Y)
=
\frac{\sigma_1^2}{m}
+
\frac{\sigma_2^2}{n}
\]
となります。
差なのに「+」になる
分散はばらつきなので、
差をとっても各々のばらつきは足されます。
独立なので、共分散の項が0になるだけです。
ここを間違えない
\[
V(\bar X-\bar Y)
=
\frac{\sigma_1^2}{m}
+
\frac{\sigma_2^2}{n}
\]
STEP 05
帰無仮説のもとでは差の平均が0になる
ここまで、
\[
d
\sim
N\left(
\mu_1-\mu_2,\;
\frac{\sigma_1^2}{m}
+
\frac{\sigma_2^2}{n}
\right)
\]
と整理しました。
ただし、
今回の帰無仮説は
\[
H_0:\mu_1-\mu_2=0
\]
です。
したがって、
帰無仮説の世界では、
\[
d
\sim
N\left(
0,\;
\frac{\sigma_1^2}{m}
+
\frac{\sigma_2^2}{n}
\right)
\]
帰無仮説の効果
「母平均の差は0」と仮定するため、
標本平均の差 \(d\) の分布も0を中心に考える。
STEP 06
母分散が既知|手順2:zを検定統計量にする
まず、
2つの母分散
\(\sigma_1^2,\sigma_2^2\)
が
既知
の場合を考えます。
標本平均の差 \(d\) を標準化すると、
\[
Z
=
\frac{
d-(\mu_1-\mu_2)
}{
\sqrt{
\frac{\sigma_1^2}{m}
+
\frac{\sigma_2^2}{n}
}
}
\sim N(0,1)
\]
です。
今回は、
帰無仮説で
\(\mu_1-\mu_2=0\)
としています。
したがって、
検定統計量は
\[
Z
=
\frac{
d
}{
\sqrt{
\frac{\sigma_1^2}{m}
+
\frac{\sigma_2^2}{n}
}
}
\sim N(0,1)
\]
手順2
母分散が既知なら、
標本平均の差を標準化した
\(Z\)
を検定統計量にする。
STEP 07
母分散が既知|手順3:両側5%の棄却域を設定する
ここでは、
有意水準を
\[
\alpha=0.05
\]
とします。
対立仮説は
\[
H_1:\mu_1-\mu_2\neq0
\]
なので、
両側検定です。
標準正規分布の左右2.5%を棄却域にする
\[
|Z|
\ge
z_{0.025}
\]
が棄却域になります。
実際の標本から
\[
z_{\mathrm{obs}}
=
\frac{
\bar x-\bar y
}{
\sqrt{
\frac{\sigma_1^2}{m}
+
\frac{\sigma_2^2}{n}
}
}
\]
を計算し、
この実現値が棄却域に入るかを判定します。
判定
\(|z_{\mathrm{obs}}|\ge z_{0.025}\)
なら、
「母平均の差は0」という帰無仮説を棄却する。
STEP 08
母分散が未知で等しい場合はプールする
次に、
2つの母分散が
未知
の場合を考えます。
まず、
2つの母分散が等しいと仮定できる場合です。
\[
\sigma_1^2=\sigma_2^2=\sigma^2
\]
この場合、
2つの標本から得られる不偏分散を
自由度で加重平均
した、
プールした分散を使います。
\[
\hat\sigma^2
=
\frac{
(m-1)\hat\sigma_1^2
+
(n-1)\hat\sigma_2^2
}{
(m-1)+(n-1)
}
\]
標本1の不偏分散
\(\hat\sigma_1^2\)
標本2の不偏分散
\(\hat\sigma_2^2\)
↓ 自由度で加重平均
プールした分散
\(\hat\sigma^2\)
等分散なら
2つの不偏分散を1つにまとめた
「プールした分散」を使う。
STEP 09
母分散が未知で等しい場合|tを検定統計量にする
プールした分散を使うと、
検定統計量は
\[
T
=
\frac{
d-(\mu_1-\mu_2)
}{
\hat\sigma
\sqrt{
\frac{1}{m}
+
\frac{1}{n}
}
}
\]
と整理できます。
帰無仮説のもとでは
\(\mu_1-\mu_2=0\)
なので、
\[
T
=
\frac{
d
}{
\hat\sigma
\sqrt{
\frac{1}{m}
+
\frac{1}{n}
}
}
\sim
t(m+n-2)
\]
となります。
自由度は、
\[
(m-1)+(n-1)=m+n-2
\]
です。
手順2
母分散が未知で等しいなら、
プールした分散を使って
自由度 \(m+n-2\) のt分布へ整理する。
STEP 10
t分布でも棄却域と実現値を比較する
あとは、
母分散が既知の場合と同じ流れです。
有意水準5%の両側検定なら、
自由度 \(m+n-2\) のt分布について、
\[
|T|
\ge
t_{0.025}(m+n-2)
\]
が棄却域です。
実際の標本から、
\[
t_{\mathrm{obs}}
=
\frac{
\bar x-\bar y
}{
\hat\sigma
\sqrt{
\frac{1}{m}
+
\frac{1}{n}
}
}
\]
を計算します。
\(|t_{\mathrm{obs}}|
\ge
t_{0.025}(m+n-2)\)
→ 帰無仮説を棄却
棄却域に入らない
→ 帰無仮説を棄却しない
手順3
zでもtでも、
「検定統計量の実現値が棄却域に入るかを見る」
という構造は同じ。
STEP 11
母分散が等しくない場合はWelchのt検定
ここまでのt検定は、
2つの母分散が
等しい
と仮定できる場合でした。
一方、
母分散が未知で、
さらに
\[
\sigma_1^2\neq\sigma_2^2
\]
と考える場合には、
プールした分散は使いません。
\[
T
=
\frac{
\bar X-\bar Y
}{
\sqrt{
\frac{\hat\sigma_1^2}{m}
+
\frac{\hat\sigma_2^2}{n}
}
}
\]
のように、
2つの不偏分散をそれぞれ使います。
重要な注意
この場合は
Welchのt検定
となり、
自由度は単純な
\(m+n-2\)
にはなりません。
このレクチャーの主な式は、
母分散が未知で等しい場合
のt検定です。
分けて考える
未知・等分散 → プールしてt検定
未知・不等分散 → Welchのt検定
STEP 12
母平均の差の検定を4つの手順で整理する
手順0
仮説を設定
\[
H_0:\mu_1-\mu_2=0
\]
\[
H_1:\mu_1-\mu_2\neq0
\]
↓
手順1
標本平均の差の分布を整理
\[
d=\bar X-\bar Y
\]
\[
d
\sim
N\left(
0,\;
\frac{\sigma_1^2}{m}
+
\frac{\sigma_2^2}{n}
\right)
\]
↓
手順2
検定統計量に変換
母分散既知
\[
Z=
\frac{d}
{\sqrt{\sigma_1^2/m+\sigma_2^2/n}}
\]
母分散未知・等分散
\[
T=
\frac{d}
{\hat\sigma\sqrt{1/m+1/n}}
\]
↓
最後に
式だけを暗記するのではなく、
まず
\(d=\bar X-\bar Y\)
がどんな分布にしたがうかを理解する。
そこからz・tの検定統計量が自然に導かれる。
SUMMARY
母平均の差の仮説検定を整理する
手順0
\[
H_0:\mu_1-\mu_2=0
\]
を設定
手順1
標本平均の差
\(d=\bar X-\bar Y\)
の分布を整理
手順3
両側5%なら
左右2.5%ずつを棄却域
にして実現値と比較
標本平均の差
\[
d
=
\bar X-\bar Y
\sim
N\left(
0,\;
\frac{\sigma_1^2}{m}
+
\frac{\sigma_2^2}{n}
\right)
\]
母分散による使い分け
母分散が既知
\[
Z=
\frac{d}
{\sqrt{
\sigma_1^2/m+\sigma_2^2/n
}}
\sim N(0,1)
\]
母分散が未知・等しい
\[
T=
\frac{d}
{\hat\sigma\sqrt{1/m+1/n}}
\sim t(m+n-2)
\]
母分散が未知・等しくない
Welchのt検定
特に注意する3点
① \(d=\bar X-\bar Y\) でも分散は足し算
② 帰無仮説 \(H_0:\mu_1-\mu_2=0\) のもとでは \(d\) の平均も0
③ 未知・等分散ならプール、未知・不等分散ならWelch
最後に
母平均の差の検定も、
区間推定で整理した
「標本平均の差の分布」
が出発点。
何がどんな分布にしたがうかを理解しておけば、
検定統計量を丸暗記する必要はない。
NEXT STEP
次のステップ:統計検定®2級を目指す
このサイトで統計学の基礎を学んだあと、
統計検定®2級の合格まで体系的に学びたい方へ。
統計検定®2級対策講座【ベストセラー版】
約9時間の動画講義と200問以上の小テストに加えて、
模擬試験にも取り組めます。
講座内ではQ&Aも利用でき、
これまでに400問以上の質問に回答してきました。
約9時間の動画講義
200問以上の小テスト
模擬試験
400問以上のQ&A
統計検定®2級対策講座を見る
資格試験ではなく、統計学そのものを動画で学びたい方へ
記述統計・確率・推定・検定を基礎から学ぶ
「統計学ベーシック講座その1『確率分布・推定・検定』」
も用意しています。
統計学ベーシック講座を見る →