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母平均の差の仮説検定

互いに独立な2つの正規母集団から得られた2標本を使って、母平均の差 \(\mu_1-\mu_2\) に関する仮説検定を学びます。母分散が既知の場合は標準正規分布、未知で等しい場合はプールした分散とt分布を使って、帰無仮説を棄却するかどうかを判断します。
このページのゴール

2つの母平均の差について帰無仮説を設定し、標本平均の差の分布を整理したうえで、母分散の条件に応じた検定統計量と棄却域を求め、仮説検定を実行できるようになる。

STEP 01

2つの母集団の母平均の差を検定する

このレクチャーでは、 2つの母集団に関する仮説検定 を見ていきます。

今回検定したいのは、 2つの母集団の 母平均の差 です。

\[ \mu_1-\mu_2 \]

前提として、 互いに独立な2つの正規母集団 を考えます。

2つの正規母集団
母集団1
母平均 \(\mu_1\)、母分散 \(\sigma_1^2\)
母集団2
母平均 \(\mu_2\)、母分散 \(\sigma_2^2\)

この2つの母集団から得られた2標本を使って、 母平均の差に関する仮説を検定します。

今回のテーマ
2つの独立な正規母集団について、 母平均の差を検定する。
STEP 02

手順0:帰無仮説と対立仮説を設定する

仮説検定なので、 まずは 帰無仮説 \(H_0\)対立仮説 \(H_1\) を設定します。

今回は、 2つの母平均に 差がない という世界を帰無仮説とします。

帰無仮説
\[ H_0:\mu_1-\mu_2=0 \]
対立仮説
\[ H_1:\mu_1-\mu_2\neq0 \]

このように、 「2つの母平均に差がない」 という帰無仮説を検定する場面はよくあります。

ただし、 問いの立て方によっては

\[ H_0:\mu_1-\mu_2=c \]

のように、 差を0以外の具体的な値に設定することもできます。

手順0
今回は \(H_0:\mu_1-\mu_2=0\) として、 「母平均に差がない」という仮説を検定する。
STEP 03

手順1:2つの標本平均の分布を整理する

1つ目の母集団から サンプルサイズ \(m\) の標本を、 2つ目の母集団から サンプルサイズ \(n\) の標本を抽出します。

それぞれの標本平均は、

\[ \bar X \sim N\left( \mu_1,\frac{\sigma_1^2}{m} \right) \]
\[ \bar Y \sim N\left( \mu_2,\frac{\sigma_2^2}{n} \right) \]

にしたがいます。

今回検定したいのは 母平均の差なので、 標本平均の差

\[ d=\bar X-\bar Y \]

を考えます。

すると、

\[ d \sim N\left( \mu_1-\mu_2,\; \frac{\sigma_1^2}{m} + \frac{\sigma_2^2}{n} \right) \]

となります。

STEP 04

差をとっても分散は足し算になる

ここで注意したいのが、 標本平均の差 \(\bar X-\bar Y\) の分散です。

\[ V(\bar X-\bar Y) = V(\bar X) + V(\bar Y) – 2\operatorname{Cov}(\bar X,\bar Y) \]

今回は、 2つの標本が互いに独立なので、

\[ \operatorname{Cov}(\bar X,\bar Y)=0 \]

です。

したがって、

\[ V(\bar X-\bar Y) = \frac{\sigma_1^2}{m} + \frac{\sigma_2^2}{n} \]

となります。

差なのに「+」になる
分散はばらつきなので、 差をとっても各々のばらつきは足されます。
独立なので、共分散の項が0になるだけです。
ここを間違えない
\[ V(\bar X-\bar Y) = \frac{\sigma_1^2}{m} + \frac{\sigma_2^2}{n} \]
STEP 05

帰無仮説のもとでは差の平均が0になる

ここまで、

\[ d \sim N\left( \mu_1-\mu_2,\; \frac{\sigma_1^2}{m} + \frac{\sigma_2^2}{n} \right) \]

と整理しました。

ただし、 今回の帰無仮説は

\[ H_0:\mu_1-\mu_2=0 \]

です。

したがって、 帰無仮説の世界では、

\[ d \sim N\left( 0,\; \frac{\sigma_1^2}{m} + \frac{\sigma_2^2}{n} \right) \]
帰無仮説の世界
0
帰無仮説の効果
「母平均の差は0」と仮定するため、 標本平均の差 \(d\) の分布も0を中心に考える。
STEP 06

母分散が既知|手順2:zを検定統計量にする

まず、 2つの母分散 \(\sigma_1^2,\sigma_2^2\) が 既知 の場合を考えます。

標本平均の差 \(d\) を標準化すると、

\[ Z = \frac{ d-(\mu_1-\mu_2) }{ \sqrt{ \frac{\sigma_1^2}{m} + \frac{\sigma_2^2}{n} } } \sim N(0,1) \]

です。

今回は、 帰無仮説で \(\mu_1-\mu_2=0\) としています。

したがって、 検定統計量は

\[ Z = \frac{ d }{ \sqrt{ \frac{\sigma_1^2}{m} + \frac{\sigma_2^2}{n} } } \sim N(0,1) \]
手順2
母分散が既知なら、 標本平均の差を標準化した \(Z\) を検定統計量にする。
STEP 07

母分散が既知|手順3:両側5%の棄却域を設定する

ここでは、 有意水準を

\[ \alpha=0.05 \]

とします。

対立仮説は

\[ H_1:\mu_1-\mu_2\neq0 \]

なので、 両側検定です。

標準正規分布の左右2.5%を棄却域にする
2.5% 2.5%
\[ |Z| \ge z_{0.025} \]

が棄却域になります。

実際の標本から

\[ z_{\mathrm{obs}} = \frac{ \bar x-\bar y }{ \sqrt{ \frac{\sigma_1^2}{m} + \frac{\sigma_2^2}{n} } } \]

を計算し、 この実現値が棄却域に入るかを判定します。

判定
\(|z_{\mathrm{obs}}|\ge z_{0.025}\) なら、 「母平均の差は0」という帰無仮説を棄却する。
STEP 08

母分散が未知で等しい場合はプールする

次に、 2つの母分散が 未知 の場合を考えます。

まず、 2つの母分散が等しいと仮定できる場合です。

\[ \sigma_1^2=\sigma_2^2=\sigma^2 \]

この場合、 2つの標本から得られる不偏分散を 自由度で加重平均 した、 プールした分散を使います。

\[ \hat\sigma^2 = \frac{ (m-1)\hat\sigma_1^2 + (n-1)\hat\sigma_2^2 }{ (m-1)+(n-1) } \]
標本1の不偏分散 \(\hat\sigma_1^2\)
標本2の不偏分散 \(\hat\sigma_2^2\)
↓ 自由度で加重平均
プールした分散 \(\hat\sigma^2\)
等分散なら
2つの不偏分散を1つにまとめた 「プールした分散」を使う。
STEP 09

母分散が未知で等しい場合|tを検定統計量にする

プールした分散を使うと、 検定統計量は

\[ T = \frac{ d-(\mu_1-\mu_2) }{ \hat\sigma \sqrt{ \frac{1}{m} + \frac{1}{n} } } \]

と整理できます。

帰無仮説のもとでは \(\mu_1-\mu_2=0\) なので、

\[ T = \frac{ d }{ \hat\sigma \sqrt{ \frac{1}{m} + \frac{1}{n} } } \sim t(m+n-2) \]

となります。

自由度は、

\[ (m-1)+(n-1)=m+n-2 \]

です。

手順2
母分散が未知で等しいなら、 プールした分散を使って 自由度 \(m+n-2\) のt分布へ整理する。
STEP 10

t分布でも棄却域と実現値を比較する

あとは、 母分散が既知の場合と同じ流れです。

有意水準5%の両側検定なら、 自由度 \(m+n-2\) のt分布について、

\[ |T| \ge t_{0.025}(m+n-2) \]

が棄却域です。

実際の標本から、

\[ t_{\mathrm{obs}} = \frac{ \bar x-\bar y }{ \hat\sigma \sqrt{ \frac{1}{m} + \frac{1}{n} } } \]

を計算します。

\(|t_{\mathrm{obs}}| \ge t_{0.025}(m+n-2)\)
→ 帰無仮説を棄却
棄却域に入らない
→ 帰無仮説を棄却しない
手順3
zでもtでも、 「検定統計量の実現値が棄却域に入るかを見る」 という構造は同じ。
STEP 11

母分散が等しくない場合はWelchのt検定

ここまでのt検定は、 2つの母分散が 等しい と仮定できる場合でした。

一方、 母分散が未知で、 さらに

\[ \sigma_1^2\neq\sigma_2^2 \]

と考える場合には、 プールした分散は使いません。

\[ T = \frac{ \bar X-\bar Y }{ \sqrt{ \frac{\hat\sigma_1^2}{m} + \frac{\hat\sigma_2^2}{n} } } \]

のように、 2つの不偏分散をそれぞれ使います。

重要な注意
この場合は Welchのt検定 となり、 自由度は単純な \(m+n-2\) にはなりません。

このレクチャーの主な式は、 母分散が未知で等しい場合 のt検定です。
分けて考える
未知・等分散 → プールしてt検定
未知・不等分散 → Welchのt検定
STEP 12

母平均の差の検定を4つの手順で整理する

手順0
仮説を設定 \[ H_0:\mu_1-\mu_2=0 \] \[ H_1:\mu_1-\mu_2\neq0 \]
手順1
標本平均の差の分布を整理
\[ d=\bar X-\bar Y \] \[ d \sim N\left( 0,\; \frac{\sigma_1^2}{m} + \frac{\sigma_2^2}{n} \right) \]
手順2
検定統計量に変換
母分散既知 \[ Z= \frac{d} {\sqrt{\sigma_1^2/m+\sigma_2^2/n}} \] 母分散未知・等分散 \[ T= \frac{d} {\hat\sigma\sqrt{1/m+1/n}} \]
手順3
棄却域を設定し、 実現値が入るか判定
最後に
式だけを暗記するのではなく、 まず \(d=\bar X-\bar Y\) がどんな分布にしたがうかを理解する。

そこからz・tの検定統計量が自然に導かれる。
SUMMARY

母平均の差の仮説検定を整理する

手順0
\[ H_0:\mu_1-\mu_2=0 \] を設定
手順1
標本平均の差 \(d=\bar X-\bar Y\) の分布を整理
手順2
母分散の条件に応じて zまたはt に変換
手順3
両側5%なら 左右2.5%ずつを棄却域 にして実現値と比較
標本平均の差
\[ d = \bar X-\bar Y \sim N\left( 0,\; \frac{\sigma_1^2}{m} + \frac{\sigma_2^2}{n} \right) \]
母分散による使い分け
母分散が既知 \[ Z= \frac{d} {\sqrt{ \sigma_1^2/m+\sigma_2^2/n }} \sim N(0,1) \]
母分散が未知・等しい \[ T= \frac{d} {\hat\sigma\sqrt{1/m+1/n}} \sim t(m+n-2) \]
母分散が未知・等しくない
Welchのt検定
特に注意する3点
① \(d=\bar X-\bar Y\) でも分散は足し算
② 帰無仮説 \(H_0:\mu_1-\mu_2=0\) のもとでは \(d\) の平均も0
③ 未知・等分散ならプール、未知・不等分散ならWelch
最後に
母平均の差の検定も、 区間推定で整理した 「標本平均の差の分布」 が出発点。

何がどんな分布にしたがうかを理解しておけば、 検定統計量を丸暗記する必要はない。
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